ここでは平地と異なる、 ここでは気候が違う、 次から次へと 雪崩 (なだれ) がおそいくる、 そうかと思えば、 石のあとに石が念る。 あとへ引きさがりも、 絶璧を避けもできる。 だが、ぼくらは難ルートをとる、 戦争でのように危ない道を。 ここに来たことのない者、 危険を冒さなかった者 - そういうやつは 自分を試さなかったのだ。 たとえ下界では 栄冠を勝ち得た者が どんなにがんばろうと、 豊かな暮しを賭けても そこで出会うことはできない、 この美しさの十分の一にも。 真紅 (しんく) のばらもなければ、 真っ黒い喪章もない。 しばし憩いを 君に与えてくれた あの岩の塊は 記念碑には見えないが、 エメラルド色の氷を 永遠の火1 のように 陽に輝かせているのだ、 なお征服していない頂 (いただき) が。 人々にはいわせておけ、 そうだ、なんとでも。 だが誰一人 むだ死にはしないし、 ずっとましなのだ、 酒や風邪で死ぬよりは ! そして仲間たちが、 安逸を冒険に、 途方もない苦難に変えた者が 君のゆけなかった道を踏破する。 垂直に立つ岩壁は そうたやすくない ! ここで幸運など 確信してはならない。 山では頼りない、 氷も、石も、堅壁も。 ぼくらの頼りはただ 両手足の砦 (とりで) と 友の手と打ち込んだハーケン、 その祈りは、ザイルが切れないこと。 ぼくらはステップを切り、 一歩もあとへ引かない。 緊張のあまり 両膝はふるえ出し、 心臓は胸から 頂に駆け出す構え。 全世界を眼下に 君は幸せに黙り込み、 ただ少しばかりうらやむのだ、 頂がまだ先にある者たちを。
1 ソ連の戦没者記念碑の前には、パリ凯戦門の下のように、よくガスによる永遠の火が燃えている。
 
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