誰かが果実を見つけた それは熟れていない、熟していない 木をゆすると、それは落ちてしまった、こぼれてしまった... これはある人についての歌、 その人は熟せなかった、歌えなかった 声を持っていたのに、気付かなかった、気付かなかった ひょっとして運がなかったのかも、悪かったのかも 仕事に恵まれなかったのかも、ついてなかったのかも ギターの弦が張ってはあるが どこかに傷があったのかも知れない 彼は歌い始めた、ドからおどおどと でも歌い終わらなかった、ドまでも 彼の和音はよく鳴らなかった、和音さえ. で、誰も感心させられなかった 犬さえ吠え、猫は ネズミを取っていたのに おかしいよ !ね、おかしいだろ ?おかしいさ! 冗談はロにしたさ - でも言い終わらない... いろんな酒を味わおうとしたが まあ、唇をぬらすだけで終り 彼が議論をしようとすると、議論をだよ 自信なげにぐずぐずしててさ まるで毛穴から汗の滴が出てくるように 膚の下から魂がにじみ出てくる、魂がさ ただじゅうたん上の決闘は始めたよ、じゅうたん上のね いやいや、ほんのちょっぴり始めただけさ ほんの少し、ちょっぴり試合に慣れたさ でも、ジャッジはカウントもとらなかった 彼は何でもかんでも知ろうとした だが、何もかも中途半端... 何ごとも底まで行かない 深さにまで達し切れない しかも唯一の彼女をも 爱し切れなかった、愛し切れなかった おかしいよ、ね、おかしいだろう ?おかしいさ! 彼は急いだ—でも急ぎ切れなかった 未解決に終わったよ 彼が解決し切らなかった全部のことが 全然俺は嘘を言わない、言わないよ 彼は純な文体の下僕だった 彼は彼女に詩を書いた、雪の上に、雪の上に... 残念ながら雪は溶ける でも当時はまだ雪が降った、雪が降った 雪の上に書く自由もあった だから大きな雪片やあられを彼は唇でとらえた 走りながら でも銀の馬車で彼女の所には 彼は行き着けなかった、全然... 走り着けなかった—逃亡者なのだ 行きつけなかった、だめだった ところで、彼の星座は牡牛座で 冷たいミルクのような銀河をなめていた おかしいよ、ね、おかしいだろう? ほんの数秒足りなくても 足りない鎖は 届かない、届かない おかしいよ、ねぇ ?そうさ! あんた方にもおかしいし、俺にだっておかしいさ 馬が走り烏は飛ぶ それは誰の罪だと言うのか?
© 宮沢俊一. 翻訳, ?